十月前半

10月3日


 学校でのことです。昼休み、胃酸の話になりまして(経緯は聞かないでください)、突然一人がこんなことを言い出しました。

「カレーパンマンのアレって、胃酸だよね?」

 ただでさえ夢のないアイツが、さらに。
 

10月6日


 学校から帰り、居間の扉を開けると、そこには新聞を読んでいる父の背中があった。


 なぜだかふいに、切なさを覚えた。


 そういえば、いつから僕は、この人と話さなくなったのであろう。これといった理由もなく、なんとなしにうとましさを感じ、距離を取るようになった。元から寡黙な父は、あえて僕に話しかけてくるようなことはしなかった。


 父の背中を見つめる。こんなに、小さかったのか。昔僕をおぶってくれた父の背は、こんなに。


 僕は、父に、とても悪いことをしていたのかもしれない。父、いや、父さんが、大切な家族だということを、すっかり忘れていた。こんなんじゃいけない、これからは、もっともっと父さんに話しかけて、親子の交流を…


「彬。何をぼーっと突っ立っているんだ」
「え? あ、いや…」
「話がある。ちょっと、そこに座れ」
「う、うん」


 予想外だった。まさか、父さんから話しかけてくるだなんて。まさか、僕の気持ちが通じたんだろうか。やっぱり、僕たちは親子の絆で…


「別に、たいしたことじゃないんだが」
「何?」
「お前、俺の缶チューハイ飲んだだろ」
「……」


 やや実話(下の会話文四行)。小学生かあんたは。
 

10月8日


 初対面の印象というのは、出会ってほんの数秒から数十秒で決まってしまうそうですね。しかも、その記憶は最低でも三ヶ月は残るんだそうな。


 ということは、です。今後長いこと付き合う可能性がある人とはじめて知り合う時、出会い頭に


「ハァーイ、シャッチョサーン!」


 とか言えば、最低三ヶ月は私はフィリピン人女性と認識されるという素晴らしい状況に、なりません。
 

10月12日


 社会人のYさん、二十歳の学生Dさん、それに十八歳の学生である私、この三人で、後楽園のWINS(場外馬券売り場)に行きました。


 しかし、今まさに、売り場に入らんとしたそのとき、警備員さんに呼び止められてしまいました。


「あー、ちょっと、身分を証明するものはありますか?」


 ご存知のとおり、未成年や学生は、馬券を買うことが禁じられています。今まで何度か馬券を買ったことがありますが、とめられたのは初めてです。


 と、ここで気がついたのですが、警備員さんが私のことを見ていません。二十歳学生のDさんに向かって言っているようです。


Dさん「あ、二十歳過ぎてても、学生じゃだめなんですか?」
警備員「はい、申し訳ありませんが」
私「じゃあ、Dさん、ちょっと待ってて、買ってくるから」


 警備員さんは、私には何も言いません。Yさんと馬券を買いに行きました。


 私は、二十歳を過ぎていて、さらに学生ではないと、警備員さんは思ったんですね。


 …悔しい。こんなに。こんなにもぴちぴち気分な私を。


 あまりにも悔しかったので、解散した後一人で馬券売り場に戻って、三十分ほどうろつき、わざと警備員さんの前を通ったりしました。


 結果、惨敗。誰一人として私に声をかけませんでした。


 今夜は馬刺しパーティーをしよう。